危険ドラッグのこと

日本中毒情報センターで受信したいわゆる
「合法ハーブ」による急性中毒に関する実態調査

黒木由美子 1) 飯田 薫 1) 竹内 明子 1) 三瀬 雅史 1) 高野 博徳 1) 荒木 浩之 1) 飯塚富士子 1) 波多野弥生 1) 遠藤 容子 1)
水谷 太郎 1)2) 吉岡 敏治 1)3)

1) 財団法人日本中毒情報センター
2) 筑波大学大学院人間総合科学研究科臨床医学系 救急・集中治療部
3) 大阪府立急性期・総合医療センター

はじめに

インターネットの普及に伴い国内外のさまざまな医薬品や商品の入手が容易になると、日本中毒情報センター(以下、JPIC と略す)へは違法ドラッグ等による急性中毒の問い合わせが増加した。JPIC では、違法ドラッグ等に関する受信件数の増加や、これらの急性中毒 症例について中毒学会などへ報告し、常に警鐘を鳴らしてきた ( Fig.1 違法ドラッグ等に関する問い合わせ件数経年推移 ) 1)~7) 。しかし、違法ドラッグ等に対する法規制と類似構造をもつ新しいドラッグの市場への登場は、常にいたちごっこであるのは周知のとおりである。

Fig.1 違法ドラッグ等に関する問い合わせ件数経年推移
Fig.1 違法ドラッグ等に関する問い合わせ件数経年推移

2008年以降、JPIC においては、インターネット上でハーブやポプリなどと謳って販売されている、いわゆる「合法ハーブ」(以下、「合法ハーブ」)を紙で巻いてタバコ様に、あるいはキセルなどで吸入し、中毒症状が出現したという問い合わせが増加している。「合法ハ ーブ」には、大麻の主成分であるテトラヒドロカンナビノールと化学構造が類似している合成カンナビノイドが含まれていることが多く、現在、違法ドラッグとして規制が進められているところである 8)~12) 。さらに、JPIC への問い合わせ例では意識障害や興奮多幸感 のみでなく、頻脈、痙攣などの重篤な中毒症状が出現した例が散見された。 そこで、今回、JPIC で受信した「合法ハーブ」による急性中毒に関する実態を調査したので報告する。

I 方法

1. 日本中毒情報センターへの問い合わせ事例

2008年1月~2011 年6月までに、JPIC で受信した「合法ハーブ」による急性中毒に関する問い合わせ36件について解析を行った。

2.医療機関に追跡調査し得た症例

2008年1月~2011年6月までにJPIC で受信した「合法ハーブ」に関する医療機関からの問い合わせに対して、急性中毒症例調査用紙の送付による追跡調査を行い、回収し得た12件(14例)について、詳細に解析した。

II 結果

1.日本中毒情報センターへの問い合わせ事例

Fig.2 いわゆる「合法ハーブ」に関する問い合わせ件数 」 にJPIC で受信した「合法ハーブ」に関する問い合わせ件数、および「合法ハーブ」に含まれると考えられている合成カンナビノイドの指定薬物規制の施行時期を矢印で示した。
問い合わせ件数は、2008年は3件、2009年は2件、2010年は8件であり、2011年は6月までにすでに23件を受信し、急増していることが判明した。

Fig.2 いわゆる「合法ハーブ」に関する問い合わせ件数
Fig.2 いわゆる「合法ハーブ」に関する問い合わせ件数

商品名は、2008年と2009年はスパイス系の商品(スパイスゴールド、スパイスダイアモンド、スパイスダイアモンドスピリット)が主であったが、指定薬物制度により一部の合成カンナビノイドが規制されると、さまざまな商品名の「合法ハーブ」の問い合わせを受信した。ブレイズ、ゴースト、スカル、ブレイン、ロックスター、ラッシュトリップ、 斬(ザン)、刀(カタナ)などである。
連絡者は、医療機関が34件(94.4%)であり、一般市民は2 件(5.6%)であった。また、北海道や沖縄を含む全国各地から問い合わせがあった。
患者年齢層は、10歳代9 件(25.0%)、20 歳代21件(58.3%)と若年層が多く、30歳代3件(8.3%)、40歳代2件(5.6%)、60歳代1件(2.8%)であった。性別は男性31件、女性4件、不明1件であった。なお、複数名で摂取していたことが確認できた事例が3件あったが、統計上は重篤な患者または年齢が若い患者について計上している。
摂取理由はすべて乱用目的であり、摂取経路は吸入が35件、経口が1件であった。
すべての問い合わせで中毒110番受信時まで何らかの症状が認められており、意識障害、興奮多幸感、幻覚などのほか、痙攣、頻脈、不整脈、散瞳、呼吸困難、血圧低下などの重篤な症状も聴取していた。

2.医療機関に追跡調査し得た症例

Table 1 JPICで受信したいわゆる「合法ハーブ」中毒症例の詳細(14例) 」 に、追跡調査し得た12件(14例)について、商品名、患者年齢、摂取経路、受診までの時間、中毒症状、治療、入院日数、分析に関する事項を示す。なお、症例番号 6、7、8 は、友人同士が一緒に吸入したという同一事例である。

Table 1 JPICで受信したいわゆる「合法ハーブ」中毒症例の詳細(14例)
Table 1 JPICで受信したいわゆる「合法ハーブ」中毒症例の詳細(14例)
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商品名は、スパイスダイアモンド、ブレイン、ロックスター、斬、刀斬、ノーザンライト、セサミストリートなどであった。なお、入手方法は、インターネットで購入した4例、店舗で購入した2例、知人からもらった1例、不明7例であった。
患者の年齢層は、10歳代7例、20歳代4例、30歳代1例、40歳代2例であり、性別はすべて男性であった。
摂取経路は、吸入が13例(あぶり5例、紙巻4例、キセル2例、タバコの先に盛る2例)、インターネットの記載をまねして興味本位で食べたという経口摂取1例であった。
中毒症状の出現時間は早く、吸入あるいは経口摂取後3.5時間以内に医療機関を受診していた。出現症状は、大麻中毒の主症状である意識障害や精神症状のみならず、ショック状態(1例)、振戦・痙攣(5例)、頻脈(11例)、散瞳・羞明(7例)などが認められた。
症例番号13は、43歳男性が、これまで第二世代の「合法ハーブ」を乱用していたが、今回、第三世代の「合法ハーブ」を初めて吸入し、ショック状態になったという例であった。なお、この患者は常用薬として、三環系抗うつ薬およびベンゾジアゼピン系薬を服用していた。
治療は、輸液13例、酸素マスク3例、加温1例であり、誤嚥性肺炎を起こした1例は人工呼吸、抗生剤の投与が必要であった。入院を要したのは10例で、入院日数は9例が1~2日間、誤嚥性肺炎を起こした1例は4日間であり、外来のみは4例であった。
原因成分の分析状況は、医療機関でTriagesup ® を実施したのは2例であったが、常用薬以外は大麻も含め陰性であった。そのほか警察による分析により乱用薬物は陰性と判定された例が1例、警察が試料を持ち帰ったため分析結果が不明6例、分析を実施していないが5例であり、最終的に原因成分が判明した例はなかった。

III 考察

前述のとおり「合法ハーブ」は、主にインターネット上でハーブ、ポプリなどとして販売され、これを紙で巻いたりしてタバコ様に吸入する。内容物は乾燥植物であるが、植物は大麻などではなく雑多なハーブに、多幸感や快感などを高めるために化学物質が添加されている。欧州では、2006年頃から市場に出回り乱用が始まっており、2009年にドイツなどで「Spice Gold」という商品から、大麻成分であるテトラヒドロカンナビノールと化学構造が類似している合成カンナビノイド(JWH-018、CP47,497)が検出されたと報告があり、各 国で監視体制・規制が強化された 8)~10)
わが国では、迅速かつ的確な違法ドラッグ対応を実現することを目的として、薬事法が一部改正され「指定薬物制度」が、2007年4月から施行されている 11)12) 。この制度は新たな違法ドラッグが市場に出回った場合、すぐに麻薬に指定するには依存性の立証などに時間を要するため、まず、無承認無許可医薬品や乱用薬物の疑いがある商品の買上調査などの結果から「中枢神経系の興奮若しくは抑制または幻覚の作用を有する蓋然性が高く、かつ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生する恐れがある物」について 指定薬物に指定し、乱用を未然に防止するというものである。指定薬物に指定されると、製造、輸入、販売等が規制される。2007年2月~2011年10月までに、亜硝酸塩、サルビノリンA、カチノン類、合成カンナビノイドなど68化学物質(およびこのいずれかを含有する物)が指定薬物に指定された。 現在、指定薬物に指定されている合成カンナビノイドは16種類に上る。これらの物質は、厚生労働省の買上調査で検出され、さらに、カンナビノイド受容体への親和性を有すること、動物実験によりテトラヒドロカンナビノールと類似した反応が観察されるなど、中枢神経系の抑制、幻覚作用を有する蓋然性が高いと判断され、指定されている。しかし、このように規制されると、さらに類似成分を含有した、次世代、第三世代、第四世代と謳った「合法ハーブ」が売り出されているのが現状である。
一方、米国中毒対策センター連合(AAPCC)は、合成カンナビノイドに関する中毒の受信件数が、2010年は2,915件、2011年は6月30日までに3,094件と、異常に増加していることを、ホームページ上のニュースで報告した。ハーブ様の製品で、商品名は、Spice、K2、Genie、Yucatan Fire、Sence、Smoke、Skunk、Zohai などである。さらに、合成カンナビノイドの中毒症状は、大麻中毒の症状と類似すると考えられていたが、頻脈、血圧上昇、嘔気などの症状が報告されており、命に係わる危険性があると注意喚起した 13)
AAPCC のニュース内容は、JPIC の調査結果と同様であり、これらの商品による中毒の情報を欧米諸国のみでなく、アジア諸国を含め国際的に情報共有し、注意喚起する必要があると考える。また、原因成分は、合成カンナビノイドのみではない可能性もあり、正確な分析が望まれる。
今後は、統一的・網羅的に中毒症例を集積し、医療行政や警察などと連携して中毒が発生した原因成分の分析を迅速に行い、専門家による中毒症例の評価を実施することが重要である。それにより、指定薬物や麻薬に該当する化学物質の早期発見、および国民への注意喚起に繋がると考える。

おわりに

近年、ハーブやポプリなどを謳った「合法ハーブ」を吸入したという問い合わせが急増している。症例の追跡調査の結果、中毒症状として意識障害や興奮多幸感などのほか、ショック、頻脈、不整脈、痙攣、散瞳などの重篤な症状が出現した例があることが判明したが、これらの原因成分は分析による確定をみていない。「合法ハーブ」には、現在指定薬物として規制が進められている合成カンナビノイドのみでなく、他の成分が含まれている可能性もあり、注意が必要である。
JPIC は引き続き受信状況や中毒症例を学会などへ報告して警鐘を鳴らす必要があり、さらに、行政と連携して早期に規制ができる体制を整備することが今後の課題であると考える。

文献

出典元:公益財団法人 日本中毒情報センター

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