違法薬物のこと

脱法ハーブの法律による規制と現状

高野博徳 黒木由美子 波多野弥生 荒木浩之 遠藤容子
公益財団法人日本中毒情報センター

はじめに

近年、乾燥した植物片に薬物を添加した、脱法ハーブの中毒事例が多発している 1) 。これらの製品から検出された合成カンナビノイド類は、薬事法等による規制が行われているが、規制成分の化学構造式の一部を変えた類似物質を含有する製品が次々と導入され、規制が追いつかない状況である 2)
本ページでは、脱法ハーブの法律による規制に関する現状と問題点をまとめるとともに、日本中毒情報センター(以下JPICと略す)で受信した脱法ハーブに関する問い合わせの実態を報告する。

脱法ハーブの規制状況

1. 脱法ハーブについて

1) 含有成分特定までの経緯

2004年頃より、欧州を中心に「Spice」 という名称の乾燥した植物片が芳香剤やお香として販売され、喫煙することで大麻様作用が現れると噂になり人気を博した。しかし「Spice」からは大麻成分は検出されず含有成分が不明であった。
その後2008~2009年にかけて「Spice」から、大麻と類似の作用を示す合成カンナビノイド類(通称JWH-018およびCP-47、497など)が検出され、人工的に合成された薬物が添加されていることが明らかになった 2) 。

2) 合成カンナビノイド類について

合成カンナビノイド類はいずれも、大麻の幻覚成分であるΔ 9 -tetrahydrocannabinol(THCと略す)と同じく、 カンナビノイド受容体のアゴニストである。カンナビノイド受容体(CB1受容体)は脳内のシナプス前終末に局在し、シナプス後部のニューロンで産生される内因性のカンナビノイドによって逆行性に活性化され、神経伝達物質の放出を短期あるいは長期に抑制させる。THCがこの機能を撹乱するこ とで、幻覚、高揚感、不安の軽減、鎮痛、運動障害などのさまざまな精神神経作用を引き起こす 3) 。合成カンナビノイド類(通称JWH-018およびCP47、497)のCB1受容体に対する結合親和性はTHCと比較し、約4~15倍強い親和性をもつことが推定され、極微量で大麻様効果が発現するとされている 4)5)
1940年代以降、医薬品としてTHCの活性を上回る数多くの合成カンナビノイドの文献報告があったが、それらは原料の調達や合成が容易ではなく、乱用薬物市場に登場することはなかった。しかし、通称JWH-018などのナフトイルインドール誘導体の合成カンナビノイド類は原料の調達や合成が比較的容易で、かつ数多くの誘導体が合成可能であるため、市場に出回ったものと推察される 6) 。実際、 「Spice」に添加されていたJWH-018が法律で規制されると、すぐに未規制の誘導体JWH-073に置き換わった商品が市場に出回るなど、構造をわずかに変えることで法律による規制をかいくぐる、いわゆる脱法化が繰り返されている 2)

2. 法律による規制について

1) 麻薬及び向精神薬取締法による規制

麻薬指定を受けた成分は、使用や単純所持も規制されるが、精神毒性や依存性などの科学的実証データが揃わない限り指定されないため、指定薬物と比べ指定までに時間を要する 7) 。このため、合成カンナビノイド類の麻薬指定は、通称JWH-018、カンナピシクロヘキサノール、JWH-073 およびJWH-122の4成分にとどまっている 9)10)

2) 薬事法による指定薬物としての規制

摂取を目的とする違法ドラッグは、医薬品の製造承認を受けていない無許可医薬品として輸入、製造、販売等を取り締まることが可能であったが、人体適用(乱用に供する用途)を標榜せず、医薬品該当性の立証が困難な乱用薬物は、法整備がなく規制が困難であった。そこで、厚生労働省は、 2006年に薬事法を改正し、中枢神経系の興奮もしくは幻覚の作用を有する蓋然性が高く、かつ人体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生する恐れがある薬物や植物を指定薬物に指定し、輸入、製造、販売、授与、貯蔵、陳列等を原則禁止し、流通段階における規制・取締りの強化を図った 8) ( Fig.1 違法ドラッグの3段階の規制 )。 お香などと偽った目的で販売される脱法ハーブは指定薬物として、都道府県の薬事監視員による監視・指導が行われている。指定薬物の含有が確認された脱法ハーブの販売など違法性がある場合は行政処分や刑事告発が行われるが、使用や単純所持は指定薬物では規制されない。このため、購入者の規制はなく、罰せられないということから「合法ハーブ」などと呼ばれ乱用を助長している 8)

Fig.1 違法ドラッグの3段階の規制
(内閣府第83回消費者委員会配布資料的 8) より引用。一部改変)
Fig.1 違法ドラッグの3段階の規制

3. 買上調査について

1) 検出成分について

国および都道府県は、違法ドラッグの流通実態の把握と取締りを行うために、店舗販売製品およびインターネット上で販売されている製品を購入し、分析を行う「無承認無許可医薬品等買上調査」を実施している 11) 。これら製品の分析結果等を公表することによって、国民に指定薬物含有製品に対する注意喚起を促している。これまで公表された脱法ハーブからの検出成分の多くは合成カンナビノイド類であったが、なかには合成カンナビノイド類とともに中枢神経奥奮作用などを有する薬物(通称bk-MBDB、デスエチルピロパレロン、 α-PVPなど)が検出されたものがあり、注意が必要である 12)-14)

2) 成分の公表について

一方、買上調査の結果は、検出された違法成分のみ公表されるため、麻薬や指定薬物に指定されていない未規制の合成カンナビノイド類などを含有する場合は、規制の対象となることが決まるまで商品名も公表されない。また、警察による鑑定結果で麻薬や指定薬物が検出されなかったとしても未規制の合成カンナビノイド類などを含有している製品の可能性があるため注意が必要である。さらに、カフェインを含有していた製品の報告もあるが、違法成分でないことから買上調査結果ではカフェインについては公表されていない 15)

4. 指定薬物の包括指定について

買上調査で国内での流通が把握された未規制の物質のうち、指定薬物の要件に該当するものは、毒性試験等の結果をもとに薬事・食品衛生審議会で審議の上、指定薬物に指定される。新規成分が指定されると、規制成分を含有する製品は店頭から消え、代わりに規制にかからないように成分を変更した製品が販売される状況が続いている 8)
このため、厚生労働省は、薬事法で規制する「指定薬物」と化学構造が類似していれば一括して規制対象とする「包括指定」の導入を決め、 2013年2月20日に合成カンナビノイド類に多くみられる「ナフトイルインドール」を基本骨格とし、分子が結合する位置3カ所を特定して、該当する772種類を指定薬物として包括指定した 16)17)

II JPICで受信した脱法ハーブに関する問い合わせ実態

1. 日本中毒情報センターへの問い合わせ事例

2008年1月から2012年9月までに、 JPICで受信した脱法ハーブによる急性中毒の問い合わせ117件について解析を行った。なお、 脱法ハーブの事例は、ハーブ系のドラッグと聴取し、かつ形状が乾燥植物片様で、燃焼または加熱により発生させた煙を吸入することが可能なものを抽出した。
Fig.2 問い合わせ件数の推移(n=117) 」 にJPICで受信した脱法ハーブの問い合わせ件数の四半期ごとの年次推移および合成カンナビノイド類の指定薬物の指定時期を矢印で示した。問い合わせ件数は、2008年3件、2009年2件、2010年8件であったが、2011年は55件、 2012年は9月までに49件を受信し、急増している。このうち、複数の脱法ハーブを摂取した問い合わせは7件あり、うち1件は5種類の「脱法ハーブ」を摂取した問い合わせであった。

Fig.2 問い合わせ件数の推移(n=117)
Fig.2 問い合わせ件数の推移(n=117)

Table 1 受信年別原因商品名の一覧 」 に受信年別原因商品名の一覧を示す。判明した128商品の商品名は77種類と多岐にわたり、“2nd edition” を謳ったり、“KATANA”と“KATANAZAN”のように人気商品の名称を継承したと思われるものも見受けられ、指定薬物制度によりある成分が規制されると、未規制の成分に切り替え、新たな商品名で販売していることが伺える。前述のとおり、買上調査では検出された違法成分のみ公表されることもあり、脱法ハーブを吸引して健康被害を生じた患者が救急搬送されたとしても、治療に必要な正確な含有成分の把握は困難である。医療従事者として含有成分の基本構造(フェネチルアミン系、トリプタミン系、ピペラジン系、合成カンナビノイド系など)およびカフェイン 15) など規制対象外であっても治療上把握が必要な成分に関する情報を迅速に入手できる公表システムが望まれるところである。

Table 1 受信年別原因商品名の一覧

製品名 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
2012 PREMIUM BLEND         1 1
ADRENALIZE       4   4
AGEHA       1   1
AladdinGREEN 2nd         1 1
ANGEL kiss       1   1
AUTOBAHN EMO       1   1
Avalon       1   1
BANANAGRA         1 1
Black Indian         1 1
Black MAGIC LOVE         1 1
BLAZE     1     1
BRAIN     1     1
CARNIVAL       1   1
dejavu       1   1
Dr.Weed         1 1
DT       1   1
ESTASY ENERGY         1 1
Emperor         1 1
ENTHEOS         1 1
Excallent         1 1
EX-SES   1       1
GHOST     1     1
Grenade93       1   1
G-SPOT 2ND EDITION         1 1
GT AGNI       1 2 3
GT Pandore         1 1
GT PANDORA Platinum       1   1
GT RUSH Miracle       1   1
GT RushTrip 2nd edition         1 1
GT666 XII LEVEL2         1 1
GYPSY       3   3
HAWAIIN       1   1
HEARTH       1   1
HERB & SEX         1 1
Hot Stuff         1 1
Hot Stuff Inspire         1 1
HYPER Mix     1     1
HYPER Mix III FINAL       1   1
infinity       1   1
JAMAICA       2   2
Jamaican       1   1
Jamaican Gold       1   1
JIN~仁         1 1
KATANA       1   1
KATANA"ZAN"       3 2 5
MAHARAJA         1 1
MANIA         2 2
MINERVA         2 2
MONSTER KING       1   1
NIMBIN       1   1
OREGON       1   1
PARADAISE       1   1
PHOENIX       2   2
R&B       1   1
Rock star     1     1
RUSH TRIP     1 2   3
SAMURAI KING       1 2 3
SHANGRILA       1   1
SILVER SNAKE         1 1
Skull 420     1 1   2
SKULL INDIAN         1 1
SPARK         1 1
Spice Diamond 2     1   3
Spice Diamond Spirit   1       1
Spice Gold 1         1
STARLITO         1 1
SUPER ZEUS         3 3
THE NORTHERN LIGHTS       1   1
THE SILVER HAZE       1   1
WARP       1   1
イースマイル       1   1
ゴッド       1   1
セサミストリート       1   1
マジックハーブ       1   1
雅(MIYABI HERB)         1 1
皇帝         1 1
商品名不明     1 11 16 28
3 2 8 61 54 128

Fig.3 問い合わせの連絡者、患者背景、経路の内訳(n=117) 」 に連絡者、患者背景、経路の内訳を示す。連絡者は、医療機関が105件(89.7%)であり、一般市民は9件(7.7%)であった。患者年齢層は、10歳代21件(17.9%)、20歳代65件(55.6%)と若年層が86件(73.5%)と多かった。性別は男性98件(83.8%)、女性13件(11.1%)、不明6件(5.1%)であった。なお、複数名で摂取していたことが認識できた事例が12件あったが、集計上は出現症状が重篤な患者もしくは年齢が若い患者について計上している。

Fig.3 問い合わせの連絡者、患者背景、経路の内訳(n=117)
Fig.3 問い合わせの連絡者、患者背景、経路の内訳(n=117)

摂取理由は全例故意の摂取であり、摂取経路は吸入111件(94.9%)でもっとも多く、次いで経口1件(0.9%)、不明5件(4.3%)であった。吸入事例111件の摂取方法の内訳を「 Fig.4 吸入手段の内訳(n=111) 」 に示す。たばこ様にして吸入が21件(18.9%)ともっとも多く、次いで炙って吸入8件(7.2%)たばこにまぶして吸入、燃やして吸入が各7件(6.3%)、パイプで吸入5件(4.5%)、 水たばこで吸入1件(0.9%)であった。不明2件を除く全例、問い合わせ受信時までに何らかの症状が認められており、痙攣、昏睡、散瞳などの重篤な症状も聴取した。

Fig.4 吸入手段の内訳(n=111)
Fig.4 吸入手段の内訳(n=111)

2 医療機関追跡調査症例

2008年1月から2012年9月までに、JPICで受信した脱法ハーブに関する医療機関からの問い合わせのうち、急性中毒症例調査用紙を送付し回収し得た43例、および医療機関から自主登録を受けた1例、計44例について詳細に解析した。
患者の年齢層は、10歳代10例(最少年齢:12歳)、20歳代25例、30歳代4例、40歳代5例で、摂取経路は吸入43例、経口1例であった。全例で症状が出現し、ショック状態(1例)、頻脈(24例)、痙攣・振戦(7例)などが認められた。意識障害は軽度なものが多かったが、痙攣、高二酸化炭素血症、呼吸性アシドーシスを認め、気管挿管を行った1例の意識レベルはGCS3で、痙攣・せん妄などを認めた1例、およびショックを認めた1例の計2例の意識レベルはJCS2桁であった。治療は、輸液投与39例、酸素投与8例、加温1例で、誤嚥性肺炎が出現した1例で抗生剤の投与、人工呼吸が行われた。入院を要したのは23例で、入院日数はショックを認めた症例を含め22例が1~2日間であったが、誤嚥性肺炎を起こした1例は4日間、腎前性要因に伴うと推定される腎障害出現例は11日間を要した。 「 Table 2 JP1Cで受信した脱法ハーブの中毒症例(重篤定例のみ) 」 に把握した44例のうち、 重篤な事例14例について、商品名、患者年齢、摂取経路、受診までの時間、中毒症状、治療、入院日数、分析に関する内容を示す。
なおTriageは9例に実施され、1例でTHCが陽性、大麻吸引歴のある1症例でTHCが(+ -)であったとの記載があった。

Table 2 JP1Cで受信した脱法ハーブの中毒症例(重篤定例のみ)
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おわりに

脱法ハーブを乱用目的で使用した問い合わせでは若年層が多く、 ショック、頻脈、痙攣などが出現した例があることが判明した。また、買上調査結果は、規制成分の合有に関する内容のみ公表されるため、脱法ハーブに含有する規制外の成分は把握できないという問題があった。
包括規制の導入により、ナフトイルインドール骨格をもっ成分を含有する脱法ハーブは流通しなくなると期待される。インドール環でなくインダゾール環を有する成分がすでに指定薬物となっていることから、代わって新たな骨格を有する成分が流通する可能性もあるが、買上調査等で判明した成分の基本骨格を迅速に包括規制することにより、健康被害の拡大を食い止めることが必要である。
JPICは、受信状況などを学会報告することで、引き続き脱法ハーブをはじめとする乱用薬物に関する警鐘を鳴らすともに、危険性に関する啓発を行っていきたい。

文献

出典元:公益財団法人 日本中毒情報センター

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